大受 東大 世界史 2006 民主主義は戦争を抑制?助長?

池袋の世界史専門塾ゆげ塾にて、難関国立私大向けの論述授業をお手伝いさせて頂いて関係で、非常に多くの問題に触れました。社会人になってある程度の時間が経った今、こうした問題を見返すと、なるほど示唆に富むなと思うことが良くあります。

2021年ごろ、弓削先生とyoutube番組『未来の世界史』にてお話しさせて頂いており、その際にも扱ったこの問題。

 近代以降のヨーロッパでは主権国家が誕生し,民主主義が成長した反面,各地で戦争が多発するという一見矛盾した傾向が見られた。それは,国内社会の民主化が国民意識の高揚をもたらし,対外戦争を支える国内的基盤を強化したためであった。他方,国際法を制定したり,国際機関を設立することによって戦争の勃発を防ぐ努力もなされた。

 このように戦争を助長したり,あるいは戦争を抑制したりする傾向が,三十年戦争,フランス革命戦争,第一次世界大戦という3つの時期にどのように現れたのかについて,17行(510文字)以内で説明しなさい。その際に,以下の8つの語句を必ず一度は用い,その語句の部分に下線を付しなさい。

ウェストファリア条約 国際連盟 十四カ条 『戦争と平和の法』 総力戦 徴兵制 ナショナリズム 平和に関する布告

この問題は、絶対王政下で好き勝手戦争した国王を倒し、人権の元に平和を求める国民国家は、実は王様より好戦的で戦争を求めているのではないか、という問いかけであると考えます。

最近だとロシアとウクライナが2022年より戦争を開始するとともに、日本のみならず世界的にLGBTQや外国人・難民の権利をめぐって様々な論争が見られます。私はこうした風潮が、昨今の不安定な経済状況から目を逸らさせて延命する世界的なキャンペーンのように感じられます。

指定語句から、本問は経済状況でなく国内政治・国際政治の視点から書くように求められており、その中でも「総力戦」「徴兵制」「ナショナリズム」は、国民国家の名のもとに人々がまとまる様相を考慮する必要があります。

30年戦争をやっていた頃(17世紀)は絶対王政下、国王は域内の諸侯を束ねる形で統治します。日本だと、江戸時代に徳川家が各地の大名に藩を与えて統治していました。この場合、国王(徳川家)は各地の人民一人ひとりを捕捉できるわけではなく、それぞれの人民が属する社団を介して統治します。つまり、絶対王政と言えど、国家の中はバラバラな統治機構でした。

国民国家は、こうしたバラバラ状況を統一し、中央政府が戸籍や今風に言うとマイナンバーのような仕組みで一括管理されます。

また、国民国家は、台頭した産業資本家が国王を倒す形で形成されます。彼らは経営者です。経営者は利益の最大化を図り、売上=客数×客単価において、国王や貴族の政治・経済的特権をはく奪して市民に均等に振り分け「平等」を謳いながら客単価を揃え、客数を最大化するマーケティング手法として国民国家を作るに至ったと考えます。

2020年代、日本のみならず世界中で成長の鈍化と貧富差の拡大、SNS発達による情報取集手段の多様化により、国民の多層化が進み、1次大戦・2次大戦時代のような国民を一つにまとめあげるような国家運営は難しく、政治家は常に様々な側面で国民を社団のように捉えなおし、政治キャンペーンを行う必要があるのでしょう。例えば、「高齢者」「若年層」といった年代別、「関西」「関東」といった地域別、「xx関心層」「非関心層」等々。クラスターマネジメントとでも呼ぶべきでしょうか。

日本での政治キャンペーンと言えば、2003年の小泉元首相による「郵政民営化、是か非か」キャンペーンが成功例として有名で、「IQは低いが改革を支持する」B層というセグメントにアプローチしたことが有名です。その後は旧民主党政権による年金破綻キャンペーンなどが挙げられます。

そして、こうしたクラスターマネジメントは、政治家よりもグローバル企業の方がノウハウを持っており、今後は一部の巨大グローバル企業が献金とロビー活動を通じて政治家を更に動かしていく時代になり、最終的に政治を握るようになると思いますこの過程で、多くの社団が衝突したり対立し、相互理解や融和の視点やメリットが薄れていくでしょう。

私達が子供たちに伝えるべき視点は何か。昔は私も理想を掲げて平和を取り持つリーダーシップを重視してましたが、今は少し考え方が変わり、分断が進むことは避けられず、いかに円滑に分断を進めるか、衝突や対立を緩やかなものにできるか、という現実的な視点が大切だと思うようになりました。

同視点において、私が子供に伝えたい「好奇心突破」は、両者を理解し共感しつつ、自分自身が導きたい未来に向けてうまく付き合う、だと思っています。融和できるのが理想ですが、うまく慣れ合うというのは、まさにGAFAMをはじめとしたグローバル企業が各地の法律や文化と慣れ合いながら客数や客単価を最大化する営みだと考えます。

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