子供の日次記録を残す理由 – 縦断的分析によるメタ認知

子育て・能力開発

子供の成長記録を毎日このブログに書き続けて半年。私が日次での子供の成長記録を残そうと決めたきっかけは、私自身が縦断的分析によるメタ認知に非常に良い影響を受けたこと。横断的分析に比べて、自分を納得させて前に進む力を生みやすいと考えます。

縦断的分析と横断的分析

子供の成長に着目する教育分野における研究には横断的分析縦断的分析があり、簡単に言うと横断はある1時点での複数の個人や集団を比較し、縦断は複数時点で個人や集団を調査し時系列変化を見ます。縦断的分析は個々のサンプルや集団を複数の時点で調べるので、「(1)年齢・コホート・時期の効果を分離できること、(2)個人内変動の軌跡とその個人差を定量化できること、(3)因果関係に関する手がかりを得られること」(出典:伊藤大幸(2022) 発達研究における縦断的アプローチの役割と方法論)が特徴です。

私はアクセス権限がないため伊藤(2022)の論文を直接読むことができていないものの、下記の参考記事には同論文を引用する形で、小学生~中学生における抑うつにおいて、横断分析と縦断分析で研究結果が大きく異なる事例が紹介されています。

引用元:【論文レビュー】横断研究と比較した縦断研究の特徴とは?:伊藤(2022)

特に学習手法において子供の発達や教育にそれなりに関わってきた私は、学習効果は個人差が大きく、行動主義的に「子供をある環境に突っ込めばある結果(=行動)が得られる」的な発想ではなく、むしろ個々人の性格と時系列で異なる様々なイベントに合わせてパーソナライズされるべきだという考え方に基づいています。

縦断的分析の活用事例

下記の論文。内容の是非は別にして、縦断的分析の政策応用余地の研究成果が紹介されています。

子供が将来、膨大な自分の過去記録を読みながら自身を振り返りつつ、自分と社会の乖離を理解・分析したり、自身の過去の分析過程で自分のやりたいこと・やるべきことを見つけるきっかけになればと思っております。

出典:北村行伸、金子隆一(2013)縦断調査の厚生労働政策への応用に向けて

上記の北村、金子(2013)の論文では「Ⅳ 既存縦断調査分析の政策応用に関する検討」にて下記の11研究事例が紹介されています。

1. 児童の体位 – 次世代の成人期における生活習慣病の予防

2.祖父母・保育サービスによる保育支援の都市規模による差 – 父母ないし保育サービス等の支援の調達しやすさが、母の就業に強く影響をしている

3.保育政策、地域子育て支援 – 育児不安や負担感の軽減を目指す施策においては,対象世帯の階層や母親の就業状況などによって異なったメニューを用意し,対象に即した支援を行う必要がある

4.若者支援に関する施策、教育政策 – 若年出産をした層は、支援政策の対象となり得る

5.経済的支援に関する施策 – 意識における経済的負担感の強さと実態としての費用負担の高さは必ずしも一致していない

6.父親役割を測る – 婚外出生児を持つ母親が相談しやすい行政窓口を整備するなど,コミュニケーションを図る支援を行い,子どもの環境格差解消を促進する施策が望まれる

7.「21世紀出生児縦断調査」による子ども観の分析:概要と提言 – 親の持っている子ども観によって,育児方針や教育方針に差が認められ、それが子どもの生活や学習習慣にも影響を及ぼしている

8.独身者の結婚意欲ならびに有配偶者の希望子ども数に関する分析 – 非正規雇用の対策推進は、結婚を促す効果を持ち、企業における育児休業制度など支援制度の推進は、既婚者の出生意欲のみならず独身者の結婚を促す効果が期待され、また、男性の長時間労働の見直しや育児参加意識の促進は、男性の育児への参加を進めることで妻の希望子ども数、ひいては出生子ども数を高める効果を持つといえる

9.配偶者選択選好の変化:2002年以降の結婚行動にみられる新たな知見 – 高学歴女性が上方婚にこだわらない配偶者選択選好に変化しており、西欧型の稼得能力の高い女性ほど結婚しやすいという方向に向かっている可能性を示唆している。こうしたことからは、たとえば年金制度における第 3 号被保険者制度や所得税・健康保険の扶養者控除のように女性の就業を抑制する作用を含む制度はこれらの新しい世代には合っておらず、結婚を阻害している可能性すら考えられる

10.第 2 子出生タイミングに関する要因分析 – 育児休業制度の拡充は働く女性の第 2 子出産を促進する効果があり、夫の育児参加が可能となるような働き方の促進は、第2子の出生を促す効果を持ち、さらに妻の育児に対する不安や悩みの軽減が、第2子出生への移行を促す

11.高齢者の健康状態変化分析 – バランスを考えた食習慣、適正体重の維持、軽い運動の習慣、就業の継続、高学歴は健康悪化を防ぐ効果があり、さらに人間ドック受診、就業継続、就業の開始、有配偶などは健康を改善する効果が認められた

出典:北村行伸、金子隆一(2013)縦断調査の厚生労働政策への応用に向けて

自分の過去と向き合う – メタ認知の獲得と自身による過去分析

私自身の話をすると、自分の過去を振り返り、結構特殊な子供だったと思います。一日中砂場で遊んでたり、自分の好きなことに死ぬほど没頭したり、自分の思う通りにいかないと怒ったり。最も、私が自分の特殊性を自覚するのは大学生以降で、高校卒業までは自分が他者に迷惑をかけたり嫌な思いをさせていることには全く気づくことができず、今では過去の行いを反省しつつ、人として正しく生きなきゃいけないと思う日々です。

自分を客観的に見始めることができるようになった大学生~社会人の最初数年は、結構地獄でした。改善しなきゃいけないという意識が芽生えつつ、何をどうすればいいか、誰に相談すれば良いか分かりませんでした。両親には決して相談できるような関係性ではなかったし、そもそも私は常に人を遠ざけて自分のやりたいことに没頭してきたため、本当に本当に波長のあう本当にごく一部の友達しかおらず、彼らも彼らで独自の世界観があったため、よく衝突してました。

こうした背景もあり、私は多読を通してその答えを探すようになります。読書は、著者が体系化した考え方や段取りそのものであり、著者の思想そのものだったりします。タイトルを見て気になった本を片っ端から図書館で借りて読みふけるうちに、人の思想、知識、それらの体系を自分なりに解釈し、自分と比較するようになります。

この過程で、私は自分のメタ認知を磨くようになります。メタ認知とは、簡単に言うと自分を客観的に見ることです。そして、自分には~という特徴がある、または自分には~がない、といった点を列挙しつつ、その理由を自分の過去を遡って探していく過程で、自分の悩みの原点や解決の方針・解決策を組み立てられるようになります。

例えば、私は社会現象が好きです。個々人や個々の企業が良かれ・十分と思って日々の生活を送っても、地域・国・全体といった規模では悪かったり不十分だったり。いわゆる『合成の誤謬』。こうした現象への興味から、昔から法律、経済、政治、階級、歴史といった領域における比較・体系化を好んだと思われます。

では、なぜ私は社会現象を好きになったのか。私が商売を好きになり、価格のつき方に興味を持ったからでしょう。私は3歳から祖母より天然石の目利きや売買を教わり、商売として石の売り買いにおける価格設定に並々ならぬ訓練を積んだからです。

同じ種類の石でも形・大きさ・彩度・含有物で希少価値と値段が大きく異なり、また、天然石は概して金の価格に比例して値段が上下するため、同じ石でも販売時期や場所で価格が大きく異なることを学びます。特に面白かったのは、祖母や私だけではなく、同業の方々が全く同じような考え方やロジックで値段を上下させていたことでした。これが「現象」だと理解できた私は、自分の知っている世界だけではなく、様々な世界情勢が自分に影響を与えていることを感じるようになり、より広い社会の現象に目を向けるようになります。

では、なぜ私は商売を好きになったのか。貧しかったこともあり、儲ける方法に興味があったのでしょう。私の父は、家が貧しすぎて大学の学費を全て免除になり、医師になって最初の勤め先である大学病院の給与は「日給3850円、日々これを更新す」でした。私も当時の書類を見せてもらってびっくりしました。

その後父は私立の結構大き目な病院に転職し、かなり良いお給料を貰っていたらしいのですが、貧しかったからこそ、私も貧しく育てられました。正確には、お金をかける部分とかけない部分のメリハリをかなりはっきりつける生活を送りました。

ほぼ毎年のように海外旅行には連れて行って貰ったものの、泊まるホテルや食事は毎回チープでした。アメリカでは一人1泊1000円ほどの非常に汚い宿に泊まって母が泣いたこともありましたが笑、数か月かけてアメリカを横断して主要な観光名所や都市をめぐり、私にとっては一生忘れられない数々の経験も積ませて頂きました。

また、3歳から始めたバイオリンは本気でプロを目指すべく高い月謝や楽器代を払って頂き、高校からは東京の私立校に通わせて頂きました。私も自分が貧しいという自覚はあったので、東京出身でお金持ちな同級生が部活帰りに必ずコンビニによって買い食いする中、私は一人何も買わずに外で待ってるような感じ。最も、恥ずかしいといった感覚は一切ないし、同級生たちも私のお金の使い方を知っていたので、私が高校生の時に長年貯めた貯金で15万円のギターを買ったときは一緒に喜んでくれました。

こうして、貧しかった→稼ぎたくなった→稼ぐための商売で売買の値付け方法を知った→値付けには様々な社会現象が影響することを知った→社会現象に興味を持った というストーリーを構築することができ、自分自身が向き合うべき領域、特に合成の誤謬で解釈が大きく割れる社会保障政策を専攻・仕事にすることに対し、自信と確信を持って向き合えるようになりました。

振り返る資料としての記録

私が上記の過去分析に至ることができたのは、(1)メタ認知という概念を獲得して自身を客観化することにこだわったこと(2)自身と比較対象との違いの原因を過去に求めるための記憶と記録があったこと が大きな理由です。特に(2)に関しては、自身の記録とともに、両親が私の過去の書類やアルバム、思い出の品を捨てずにとっておいてくれたからでした。

この両親の行いに感謝しつつ、私自身も子供たちにこの行いを受け継ぐべく、なるべく子供たちの生活のリアルを記録しつつ、自己分析に繋がる資料を沢山残していく所存です。

この記事を書いている最中、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏がクビになり、Microsoftにジョインする報道が出ています。間違いなく時代を象徴する1イベントとして記録されるでしょう。時は大AI時代。産業革命同様、これまで定型化されてきた作業は自動化され、指示された作業をこなす労働者はどんどん失業する時代を迎える中で、20~30年後に就職する子供たちが、自分が歴史に果たすべき使命を自覚して生きていけるようになれば良いなと思います。

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