Amazon USで働き始めて10か月。先月妻子が渡米し、その生活を安定させるにも必死でしたたが、同時に子供たちの脅威的な成長にも驚かされ、自身の教育現場での体験と私見を振り返りながら「パラダイム思考」の重要性を述べます。
内容的には前回記事の続きになるため、宜しければ前回記事をご覧頂いた後に読んで頂けますと幸いです。
子供たちの成長
このブログは子供と私の成長を記録するために始めた経緯があり、昔は毎日気づきを一つの記事にして記録していたのですが、渡米準備及び渡米を機に途絶えてしまいました。もったいないなと思いつつ、妻子渡米後は毎日子供たちの成長で気になった点をスマホのメモ帳に記録しており、月一くらいにまとめて良いかな、と思ったり。
■長女
・DWEのclap your hands英語で歌って踊って完コピ(12/29)
・一人で「ごめんなさい」を言える(12/31)
・大きなミッキーのぬいぐるみを怖がる(1/2)
・英語パズル没頭(1/3)
・「やきまえー」としきりに言う。どうやらBebefineの「Love you more」の意味らしい(1/4)
■次女
・部屋の隅から隅まで20歩歩く(12/29)
・「べべふぃん」を発声(12/31)
・リズムに合わせて足を上下(12/31)
・BebefineのI’m a pirateが大好き(1/3)
何といっても長女の成長が目覚ましく、日々新しいことが飛躍的にできるようになりびっくりしております。次女も現在は粗大運動が大きく伸長しており、歩くスピードや椅子・段差の昇り降りのスピード・頻度が大きく向上しています。
長女は2歳にしてアメリカ歴代大統領を丸暗記し、私と一人ずつ言い合っていく動画を見た私の父が「2歳でアメリカ大統領全員暗記してるのってアメリカでも数%しかいないんじゃない?ギネス登録する?」と大興奮でした笑 ちなみに、私はそういうノリは嫌いではないです笑 でもギネス登録ってきっとお金かかるんですよね。。。?
アメリカ大統領もそうだったんですが、私が受験期に丸暗記した上記の内容を日常会話に織り交ぜてたら自然と子供が覚えたので、何かこういった知識系を普段から話したら覚えていく気がします。とはいえ私が日常会話に受験の語呂合わせを降り前ぜるのは今に始まったことではなく、妻と出会った頃もなんの脈絡もなくつぶやいてたりしてました笑 未だに思うけど、妻さんこんな私とよく結婚したなあ、と笑 私が勉強・研究しながら日々あーだこーだ言ってるのを笑って聞き流してくれる、なんとも器の大きい方です。
なお、最近子供がハマっているのがこちらの書籍。日本で手に入るか分かりませんが、本当に全2歳児にオススメしたい。内容はプログラミングではなく、時計が動く原理(歯車の連動)や原因分析を行う際のプロセス分解の仕方が、平易な英文と引っ張ったり開いたりする子供向けギミック満載で記載されており、大人が子供に話しながらページをめくる分には最強の教材だと思います。
たまたま同僚の方から頂いた本を本棚に置いといたら長女が激ハマりしました。そして妻曰く妻の英語力上達にも良い本だそうです笑
2歳児=魔族

出典:葬送のフリーレン
『葬送のフリーレン』の世界では、人間の言葉を操る魔物の総称として「魔族」が定義されており、個人的には魔族たち自身が人間側が勝手に作ったこの定義を受け入れ自称しつつ人間社会と衝突する世界観って面白いなと思ったり。
そんな定義にピッタリなんですが、わが家の2歳児は魔族です笑 というより私がこれまで接した2‐3歳児はみんな魔族でした。私の長女に限った話をすると、言葉を介して言葉のキャッチボールはできるものの、社会的常識や慣習を共有していないため、こちらが言葉で伝えようとする思いは全く伝わりません。
「ケガするから・人にケガさせるから、物が壊れるからやめてほしい」と伝えたところで、また同じことを繰り返すし、「ごめんなさい」という言葉を知っていても、その使い方や「謝罪」「責任」「償い」といった言葉が持つ社会的意味を理解できていないため、注意しても何度も繰り返すし、言葉を共有してもその後私たちが期待する更生の態度は全く見られません笑
私はそんな育児も慣れっこで、何なら私は他の人に比べて5000倍くらい自分の過去の記憶が残っており、1歳ごろから現在に至るまでの不遜な態度や信頼を裏切る言動で多くの人を傷つけてきた記憶がトラウマの如くフラッシュバックするので、こうした子供の成長過程は何の疑問も不満もストレスもなく「私自身もそうだったなあ」と受け入れられるものの、真っ向から叱って行動の改善を期待する妻は、繰り返される子供たちの悪行に対して非常に心労を抱えているように感じます。きっと同じ思いをする親御さん多いのではないかと。私にとって保育士の資格取得を通じた勉強と経験は、自身の子育てに大いに役立った気がします。全人類に取得をおススメしたい。

体罰や怒鳴るなどの精神的抑圧をかける教育手法は、おそらく昭和後期から平成後期にかけて「時代にそぐわない」としてほぼ絶滅したのでしょう。もっとも、昨今SNS等でよく見かける、保育園や小中学校の教育現場で「子供たちが言うこと聞いてくれない、我慢できない、理性的に行動できない」といった先生方の悲痛な叫びは、こうした家庭での躾の方針の歴史的変化が大きく影響していると想像します。
私の経験で一つ語ると、もうすぐ3歳になる長女は未だに「ごめんなさい」が言えませんでした。ものを壊したり人が痛がっているのを見てバツが悪そうな表情をしているあたり、「なにか悪いことをしてしまった」という自覚はありそうですが、それに対してこちらが叱ろうとすると、すぐに何かに責任を転嫁したり話題を変えようとしたり、逃避行動が顕著です。
また、「ごめんなさいって言ってごらん」と私や妻が言うと、「ママと一緒にごめんなさいしたい」「パパと一緒にごめんなさいしたい」と、自分ひとりではできないと言います。推測ですが、これはおそらく日本の保育園でこういう風に謝っていたんだと思います。私は日本で通わせた保育園は日本一優れた園だと思っており本当に感謝しています。これも推測ですが、こうした謝罪方法はおそらく標準的なもので、成長の段階や月齢を考えた保育士の支援の一環だったのでしょう。
しかし、「そろそろ自力で謝罪できるようにならないと」と考えた私は、2024年の大晦日に悪いことをしてしまった長女と面と向かって「ごめんなさいって言ってごらん」と語りかけ続けました。決して声を荒げず、決して手を出さず、目を見て伝えること1時間、長女はその状況から逃れたくて1時間泣き叫び、最後の最後にようやく自分一人で「ごめんなさい」と言えました。

出典:進撃の巨人
『進撃の巨人』リヴァイ兵長よろしく、言葉による教育ではなく痛みによる教訓として、痛みや損失を以てショックとともに教え込むという手法は特段珍しくなく、例えば北極圏のエスキモーは、子供が暖炉に触ろうとするのをあえて止めずに火傷させ、教訓として触らないようにさせるとのこと。色んな手法がありますね。

出典:いらすとや
エスキモーと「火」の話です。
「鏡の法則」の著者、野口嘉則さんからお聴きしました。
エスキモーが生き永らえていくために大切なものは「火」です。
祖先から受け継いだ「火」を絶やさずに、次の世代にお渡しすることを
ものすごく大きなことと考えています。その「大切さ」と「怖さ」を教えるために…
エスキモーは、赤ちゃんが火に向かってハイハイしていっても
「危ない!」と止めるのではなく、そのまま見守っているのだそうです。
すると赤ちゃんはメラメラと揺らめく火によっていって…
手を出すんです。もちろん、「熱い!!」です。
手をひっこめます。泣き叫びます。
火傷(やけど)をします。…でも、それでいいんです。
2度とやみくもに火に寄っていくことをしなくなりますから。
「小さな失敗」 「小さな危険」を体験してみることって本当に大事ですよね。
それらを体験することによって、 大切なことがたくさんわかりますから。
どうしても、 自分の子供に対しては、 「危ない!」と、危険を避けようとしたり、
先回りして子どもが失敗しないようにと手をまわしてしまいがちですが、
子どもの「生きる力」を養おうと思えば、それを敢えてこらえて、
子どもに失敗させる、 子どもに痛い目にあわせる、ということが大切なんですね。
なかなかできることではありません。でも、今の時代だからこそ、 あえて「危なさ」を体験させることも大事なのかもしれません。
「子育ては忍耐」…どこかで聞いた言葉ですが、 手を出したいのをグッとこらえて少し離れた位置から見守ること…
大事ですね。
こうした苦痛を伴う厳しい教育や躾が正解だったか否かは結果論ですが、社会性を養うことなく傍若無人にふるまい続けた結果、常に人間関係において信用を失い続けた自身の自戒を以て、私の子供たちには人との関わり方、信用の築き方を少しずつしつけたいと思っています。
ニュートン算とは
さて、前段の話が長くなりましたが本題に入ります。記事のタイトルは書籍『AI vs 教科書が読めない子どもたち』をオマージュさせて頂きました。本書は目覚ましい進化を遂げる人工知能と、読解力に劣り教科書や問題を正確に読み取れない層の対比でしたが、今日私が書いていく内容は肌感覚で偏差値65以上の層における顕著な学力格差の話です。

正規分布に従うならば、偏差値65以上とは全体の上位6.7%、1000人の中の上位67人の話です。この記事を書いている今日は中受から大受まで日本では受験真っ盛りの時期ですが、私がこれから書く内容は自身の経験に基づくかなり過激な内容なので、現在受検中の方やその親御様はここから下を読み進めのは4月以降にして頂いた方が良いかもしれません。
まずはニュートン算を説明しつつ、徐々に本題に入ります。ニュートン算とは受験算数の典型問題の一つで、例えばこんな問題です。
あるサッカー場の入口の前に、入場直前に720人の行列ができていて、毎分12人の人がこの行列に加わります。入場口が1個のときは30分で行列がなくなりました。入場口が2個になると、行列は何分でなくなりますか。
私は某有名中学受験塾の難関受験クラスで算数と理科を約6年教えました。それ以外にも、勉強どころではない・精神疾患を抱え不登校となってしまった子供たちの社会復帰に向けた個別指導やら、大学受験専門世界史やら色々やってましたが、私が経験した教育現場の話はこちらの記事をご覧頂けますと幸いです。
一般的なお受験塾なら、ニュートン算を教える前にまずは仕事算を教えます。仕事算の紹介と解説から始めます。
ある仕事をするのに、はろ美さんは10日、すく男君は15日かかります。この仕事を2人ですると何日で終わらせることができますか。
上記のように仕事算は、主に、一定の仕事量を完了する際にかかる時間や作業スピードの計算問題として出題されます。あるボリュームの仕事があり、A君は1日で、B君は2日で終わるとき、(1)A君の作業スピードはB君の何倍ですか?、(2)A君とB君が2人でこの仕事に着手したら完了までにかかる時間は? みたいな出題です。
ニュートン算は、仕事算で扱う「あるボリュームの仕事」が、時間経過に応じて増減するという問題です。上記の例で言うと、A君とB君が必死に仕事をこなしていく中、仕事もドンドン増えていくという設定で、(1)いつ終わるの?、(2)途中でA君の生産性が2倍になったらいつ終わるの?、(3)途中でB君と同じ作業スピードのC君を追加したら、追加しない場合に比べて何分早く終わるの?、(4)途中でB君とC君が離脱しました、A君がxx日以内に終わらせるためには、A君の作業スピードを少なくとも何倍にする必要があるの? こんな感じです。
リトマス試験紙としてのニュートン算

出典:いらすとや
数年難関受験の子たちを教えているうちに、ふと気づきました。小4の終わりごろの学力で、中学受験の結果が大体見えます。つまり、中学受験は小5になる前にほぼ決まっているのではないか、という仮説が立ちました。私が教えていた子たちの多くが小5からだったからこういう見え方になってるのかもしれませんが、小5以降で偏差値64-65の分水嶺を超えた子はかなり限られます。
もちろん例外はあり、長年習い事やスポーツに打ち込んできた子が最後の3カ月で勉強だけに集中して一気に偏差値を10伸ばした、みたいな例はあります。現に私も高校受験の際、ずっとサッカーに打ち込んできた分、中学3年の12月まで模試の偏差値は52を超えることはありませんでしたが、8月に引退して以降勉強に打ち込み、1月の最後の模試で74まで伸ばしました。結果として東京の進学校に合格した経験があります。
ただ、全体としてはこうしたケースは非常に稀で、特に開成・灘・筑駒・女学院・豊島岡・桜陰・渋幕といった上位校志望の争いでは、小5以降での一発逆転は容易ではなく、トップ学力を走る子たちの成長速度を下位の子たちが抜くことは極めて稀です。
話をニュートン算に戻しますが、当時の私は、子供たちのニュートン算への適用度合いが偏差値64-65あたりの分水嶺であるように感じ始めます。ニュートン算は大体小5の始めから遅くとも8月ごろには教えますが、教えて1時間以内に解ける子はだいたい偏差値65以上の中学校に合格し、1時間経っても分からない子は65のラインを越えられないことが多い。
私にとってこの現象は非常に面白いものがあり、なぜそういう現象が起きるのか、子供たちの興味分野や得意科目、ものごとの理解の仕方を自分なりに調べるようになりました。
ニュートン算が解けない理由:理解?

出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ
もちろん教える側として、ニュートン算が解けない理由を特定して解決することを目指しました。 算数のカリキュラム上、ニュートン算は突然教わる概念ではなく、それより前に理科で滑車の問題といった物理運動を「仕事量」として教わる機会もあるし、算数でも同様の概念をニュートン算より先に教えます。
ベテランの先輩先生方に訊くと大体「問題文の理解」「公式とのマッチング」「計算」の3つに分けて整理されていましたが、私はもう少し詳細に5段階に分けて、其々の段階に併せて子供たちや保護者に解決策を提示・実施していました。
(1)情景の想像:具体的な体験や知識に乏しいため、問題文の情景を自分の頭で想像できない場合です。これは結構笑えない話で、例えば上記のニュートン算の「あるサッカー場の入口の前に、入場直前に720人の行列ができていて、毎分12人の人がこの行列に加わります。」を、サッカー場や何等かのイベントで列ができる風景を体験したことのない子供には想像が難しいのです。実は私自身がそういうタイプだったので、このステップで躓く子供の気持ちが痛いほど分かります。
また、ニュートン算には下記のような典型的な出題があります。
■水量のニュートン算
ある井戸が一定の割合で水がわき出ています。井戸に水がいっぱいになってから、毎分40ずつくみ上げると16分かかり、毎分70ずつくみ上げると8分かかります。井戸は毎分何ずつわき出ていますか。
■工場作業のニュートン算
ある工場でダンボールの組み立て作業をしています。就業前に折りたたまれたダンボールが何個かあり、1時間ごとに折りたたまれたダンボールが運ばれてきます。15人でダンボールを組み立てると10時間かかり、23人で組み立てると6時間で組み立て終わります。33人ですると何時間で終わりますか。
■牧草のニュートン算
ある牧草地には、1日に一定の割合で草がのびていて、牛が1頭ずつ同じ割合で草を食べています。25頭の牛では80日で食べつくし、40頭の牛では20日で食べつくします。(1)牧草がなくならない状態になるのは、牛が何頭以下の場合ですか。(2)30頭の牛では何日で牧草がなくなりますか。
映画館や遊園地の「長蛇の列」の他に、水をためたり、工場で作業したり、動物の牧草食べるスピードだったり。そもそもこの出題文を読んで、何が起こっているかを全く想像できない子どもは少なくありません。
私が教える子がこのステップで苦戦していると判断した場合、私は塾長や保護者の承諾・協力を得て、youtubeの動画などを使って状況を見せ、イメージさせました。想像できない時点で受験算数は勝てず、想像力を上げるためには沢山の体験が必要で、でも実体験なくともyoutubeで補えるなんて良い時代になったもんだと感じていました。
(2)仕組みの整理(≒式化):情景のイメージができても、それを式に置き換えることができない場合です。「例えば25頭の馬が同じ割合で牧草を食べて80日で食べ尽くす」を読んだときに、この文章から「馬が食べた牧草の総量は 1頭1日あたりの食べる量×25頭×80日」という式を頭で組み立てる必要があります。
加えて、上記の文章から「これがニュートン算だ!」ということに気づけないと、80日間、馬が食べるだけではなく牧草も伸び続けているイメージができず、正しい式を作ることができません。
このステップで苦戦している場合は、ひたすら同様の問題を解いて数をこなします。「こういうタイプの問題はこういう状態」を定着させ、瞬間的に理解できるようにならないと、残念ながら難関受験算数は勝てません。
(3)問題の要求に向けて式変形:式化はできても、問題が要求する形に式変形できない場合です。これは(2)とは似て非なる状態で、いわば「行間を埋める」ステップに近いものです。
あるサッカー場の入口の前に、入場直前に720人の行列ができていて、毎分12人の人がこの行列に加わります。入場口が1個のときは30分で行列がなくなりました。入場口が2個になると、行列は何分でなくなりますか。
上記のニュートン算の問題を使うなら、問題の要求は「入場口が2個になると」です。(2)までのステップで、720人の行列と12人/分の人がいて、1個の入場口なら30分で捌けたことから、捌いた人数:720+12×30=1080人、捌くスピード : 1080÷30分 = 36人/分 といった立式ができるものの、では、「入場口が2個になると」という話になると、途端に正解を導けなくなります。つまり、情景を思い浮かべて立式できても、問題の要求に頭を切り替える段階で詰まってしまうのです。
このステップになって初めて図や表での説明・理解が機能します。私は今まで、黒板で図解することで(1)-(3)まで段階の子を全て「理解」した状態に導けると思っておりましたが、そういえば自分自身も板書だけでは理解できなかった経験は多々あり、なぜ理解できないかも整理できずモヤモヤしたものでした。
(4)式と解法のマッチング:問題の要求を理解できても、受験算数においてパターン化された解法と結び付けられない場合です。後述しますが、このステップは、おそらく親の日常生活・もっと言うと世帯所得に大きく相関すると予想しています。
教え方の問題でもありますが、受験算数には「xx算」と呼称される計算方法が大量にあり、それらを記憶しつつ適切に利用しなければなりません。これらを記憶する際、偏差値64‐65の分水嶺を超える子供たちは、各公式をある程度抽象化して共通点を見つけながら記憶して利用できる形で定着させていました。
例を挙げます。ニュートン算は、仕事量の「増加」「減少」が同時に起こるため、その差分を時間で割って変化を考える計算手法です。これらと同じ概念を持つ手法に、「流水算」「周回算(旅人算)」があります。
ある船が川を上るのに時速24km、下るのに時速32kmで進みました。この船の静水時の速さと川の流れの速さを求めなさい。
1周1.8kmの池の周りを、同じ場所からはろ美さんとすく男君が同時に出発して、同じ方向に進めばはろ美さんはすく男君に50分後に追いつき、反対方向に進めば15分で出会います。はろ美さんの速さは分速何mですか。
これらは、速さの異なる2つの主体の和や差を取って時系列で整理する点でニュートン算と共通しており、面白いことに、ニュートン算が苦手な子は流水算や周回算も苦手だったりします。
こうした複数の解法の特徴を見つけて定着させる力を、この記事では「抽象化」と呼ぶことにします。この抽象化できる能力は、各家庭での体験やこれまでの教育に大きく依っており、算数以外でも現れるように感じます。
(5)計算:解法まで理解できていても、計算で間違えて正しい答えを導けない場合です。割合や比の計算、単純な計算ミスといった要因が挙げられますが、この辺は理解とは別の問題で、(1)-(4)までの工程をクリアしていれば、いずれできるようになります。
さて、生意気なことを言いますが、できる子もできない子も沢山見てきたので、私は自分が上記の分水嶺を超える指導を行う自信があります。ただし、ニュートン算を教えて1時間経ってもできるようにならなかった子は、仮にその後解けるようになった子でも先ほど述べた偏差値64-65の分水嶺を超えることができない印象です。それまでの積み重ね、その後の伸びを鑑みて、既に能力差が埋まらないほど開いている、それほどまでに上位校の競争は厳しい戦場だと考えています。
ニュートン算が解けない理由:親?

出典:文部科学省 令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します
抽象化能力の改善は何に依存するか。色々仮説を立てていた調べていた当時、私は生徒の保護者との面談の機会も頂いていたので、子供たちの学習進度や学習内容を説明する目的で、ニュートン算の問題をお父様・お母様にご覧頂いた機会が100回以上ありました。
こうした保護者面談において、そもそも子供の学習内容に興味がなく「塾で勉強させている」感覚の親御さんは、問題の内容には目もくれず、「ふーんそんなことやってるのね」で終わります。この場合、話は全く弾みません笑
一方、受験戦争に命を懸けていらっしゃるお母さまや、高学歴で受験のご経験豊富なお父様・お母様は、ニュートン算に限らず学習内容に対して色々コメントやご質問をくださいます。こうした際、親御様がニュートン算を解けるか、その場で解けなくても解くためのアプローチを想像できるか、私は注意深く観察するようにしていました。
所感ですが、ニュートン算に適応して偏差値65の分水嶺を超える子供たちのご両親の9割以上は、ニュートン算を解けます。もう一方の超えない子供たちのご両親はばらつきがあり、解ける方とそうではない方が半々といった印象でした。
この結果を受けて、私は子供の抽象化能力は親の教育の寄与が大きいのでは?と思い始めます。そもそも抽象化能力とはどのように養われるか、をもっと定義する必要がありますが、ここでは私の考えだけをまとめます。私は国語と算数は同じカテゴリー、理科と社会は同じカテゴリーだと思っています。

出典:文部科学省 令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します
国語(と英語)・算数は、言葉や数字・文字を使って記憶・理解・表現する科目で、理科・社会は現実で生じる現象を理論化する科目です。具体性があるのは理科・社会ですが、言語能力や認知能力を高めるのは圧倒的に国語や算数です。抽象・具体や帰納・演繹の行き来を行う思考の訓練や習慣は、国語・算数で主に養われますが、これらの訓練は小学校や中学受験塾では行われず、従って各家庭や友人関係で行われていると考えます。
私は文系だったのですが、理系・文系関係なくこれくらいの内容は父母共に分かるようにしておきたいよね、と妻との共通理解に至ったのはこの本です。宇宙、地球、原子、電気、地震、生物、人体、遺伝、単位あたり。ニュートン算が苦手な文系の親御様、ご興味あればぜひご一読ください笑
(余談1)偏差値65以上の中受成功者の分類
極めて多量の知識を正確にアウトプットすることが求められる難関中受の中、教える側から見ると、高い偏差値を誇りつつ結果を出している子たちにはその学習手法に3パターンあると考えています。

まずロボット型。理解も早く、なんでもそつなくこなし、宿題もちゃんとやり、精神的にも極めて安定している子たちがいます。この子達はとにかく何でもやるし、できる。どうやったらこういう子供に育つのか、本当に生命の神秘です。ただし、教えていないことや想定外のことへの対応力はゼロで、おそらく隕石の衝突といった劇的な環境変化が生じた際は速攻で絶滅する種族です笑
教える側からしても本当に手がかかりません。メンタルも安定しており、ご両親も含めて性格も朗らかで安定しています。その割合は起床で偏差値65以上の世界に5%程存在します。
続いて好奇心型。自分の興味関心があれば、それが受験の対象かどうかは関係なく死ぬほどハマります。こうした子たちは自分でドンドン学習していくので教える側としては手がかかりませんが、興味分野ではない領域や科目は自主的には手を付けないため、教育者が誘導する必要があり、非興味分野の出題割合が大きいと成績が下がる傾向があります。
最後に、その他大勢。この子達のモチベーションは他者との順位であり、親からの期待と叱責。殆どの子が大なり小なり精神的に病むので、なんだか教えているというよりカウンセリングしてる気持ちになります。途中で体調を崩して離脱する子も沢山見てきたし、ベテランの先生方も、全国的な受験戦争の過熱により、そもそも勉強慣れ・競争慣れしてない「普通の子」が増えていることは指摘なさっていました。
子供も(親も)、こんなに精神的にすり減らしてまで受験戦争で勝ち抜く必要はあるのか、教える側としても葛藤の日々を送っていました。
上記の3分類において、抽象化力に大きな差はないように当時感じました。日常会話の中で歴史上の偉人を引用しつつディスったり、国語の小説の流れを再現したりする子たちなので、抽象化する教科・対象には人に依りつつ、受験問題は遊びのためのオモチャであり共通の話題だったのでしょう。
なお、私はこうした状況は非常に健全だと思ってます。テレビやSNS見てる暇あったらテキスト見てた方が人生楽しいし得するよ笑
高学歴の再生産 – 昔から?
話を抽象化に戻しますが、ここまでの話の流れで私の頭の中を整理すると、より所得の高い親は、子供により多くの教育投資や受験関連の話題をもたらし、経験「量」で勝る子供たちが抽象化能力を得て偏差値65を超えていくという流れです。

出典:東京大学学生員会 2021年度(第71回)学生生活実態調査結果報告書
あくまで1つの指標でしかないと思いますが、東大合格者の親の所得に占める高所得者(1050万円以上)の割合はここ20年間で40%程度を維持し、日本全体で世帯所得の中央値が下がり続けている変化の影響も受けていないように見えます。
従って、難関(中学)受験を乗り越えるために必要な抽象化能力は、昔からずっと高年収世帯(≒高学歴世帯)に「独占」されてきたと思います。きっとこういう世界観だったこそ、身分制度下において「ノブレス・オブリージュ」みたいな発想になるんでしょう。
この言葉自体は1808年のピエール=マルク=ガストン・ド・レヴィの記述「noblesse oblige」を発端とし、1836年のオノレ・ド・バルザック『谷間の百合』にてそれを引用することで広く知れ渡ることになる。
英語では、ファニー・ケンブルが、1837年の手紙に「……確かに、『貴族が義務を負う(noblesse oblige)』のならば、王族は(それに比して)より多くの義務を負わねばならない。」と書いたのが最初である。
最近では、主に富裕層、有名人、権力者、高学歴者が「社会の模範となるように振る舞うべきだ」という社会的責任に関して用いられる。
「ノブレス・オブリージュ」の核心は、貴族に自発的な無私の行動を促す明文化されない不文律の社会心理である。それは基本的には、心理的な自負・自尊であるが、それを外形的な義務として受け止めると、社会的(そしておそらく法的な)圧力であるとも見なされる。
(中略)
古代ローマにおいては、貴族が道路や建物などのインフラストラクチャー整備などの建築費を支払うことがあった。その代わり、建設した道路や建物に自分の名前をつけることもあり、例えばアッピア街道は、アッピウス・クラウディウス・カエクスによって建設された。
貴族が21世紀の現在も存在するイギリスでは、上流階級にはノブレス・オブリージュの考えが求められている。第一次世界大戦では貴族や王族の子弟にも戦死者が多く、第二次世界大戦では王女時代のエリザベス2世がイギリス軍に従軍し、フォークランド紛争にもアンドルー王子などがイギリス軍に従軍している。現在でも、例えば高校卒業後のギャップ・イヤーに、ウィリアム王子がチリで、ヘンリー王子がレソトの孤児院でボランティア活動に従事している。また、ウィリアムはホームレス支援事業のパトロンでもあり、自ら路上生活を体験した他、「ビッグイシュー」の販売員を務めた事もある。
アメリカ合衆国では、セレブリティや名士が、ボランティア活動や寄付をすることは一般的なことである。これは企業の社会的責任遂行(いわゆるCSRの例)にも通じる考え方でもある。
日本においても、第二次世界大戦前の皇族や王公族の男子は、国民皆兵からノブレス・オブリージュの精神により率先して日本軍の軍務(近衛師団など)に就くことになっていた。戦死したり、戦病死した者も出ており、特に北白川宮家は三代にわたり戦死や陣没で死亡している。日露戦争では、閑院宮載仁親王が騎兵第2旅団長として出征し、最前線でロシア帝国陸軍と戦っている。そのほか、同戦争では伏見宮博恭王が連合艦隊旗艦「三笠」分隊長として黄海海戦に参加し、戦傷を負った。艦長や艦隊司令長官を務めるなど、皇族出身の軍人の中では実戦経験が豊富であり、「伏見軍令部総長宮(ふしみぐんれいぶそうちょうのみや)」と呼称される。三笠宮崇仁親王も陸軍将校「若杉参謀大尉」として、中国戦線の支那派遣軍に従軍している(終戦時は大本営で少佐)。ただ、入隊した皇族の待遇は一般の将校や兵士とは別格であることが多く、たとえば広島県江田島の海軍兵学校にあった高松宮宣仁親王の宿舎は「御殿」と呼ばれていた。また、皇族女子も日本赤十字社などの機関において貢献することが求められた。皇族や王公族ほどではないが華族男子もノブレス・オブリージュの精神に基づき、なるべく軍務につくことが求められた。
私は群馬の貧農から成り上がっている子育て世代の一人なので、(多分私が得たでろう)この抽象化能力を大切にしたいと思いつつ、次の世代にどういう形で残すべきかを考え、「パラダイム思考」「パラダイム教育」に至りました。
「パラダイム思考」の重要性
私は長い間、パラダイムという概念の部分集合をあらわす言葉を集めてきた。以下に列挙した言葉は、変えやすいものから、変えにくいものへと、ならべたものである。その順番には異論もあるだろうが、まず言葉を眺め、言葉に内在する成功のための境界とルールと規範について考えてほしい。
理論 モデル 方法論 原則 基準 プロトコル 日課、手順 前提 慣行 パターン 習慣 常識 通念 思考様式 価値観 評価基準 伝統 しきたり 偏見 イデオロギー タブー 迷信 様式 社会的強制 悪癖 教義
引用元:ジョエル・バーカー『パラダイムの魔力 新装版 成功を約束する創造的未来の発見法』
パラダイム思考とは、現象や課題の根本にある「パラダイム」を起点に置く思考法で、この思考法を鍛えるために上記の記事で挙げた訓練は、メタ認知を磨き続けること、具体的には「分ける・比べる・繋げる」の試行訓練を行い続けることです。
おそらく近い将来、10年以内にはAGIのプロトタイプが登場し、労働者の大半が代替される時代が来るでしょう。この時、パラダイムを作る側は支配階層を成し、パラダイムの中で規定された役割を担う歯車はAGIや機械に代替されるというのが私の考え方の前提です。

抽象化能力の先にあるパラダイム思考を体現できる者にとっては引き続きビジネスを生み出せる楽しい世界になりつつあり、大学含む学校等の教育機関は現行の(1)知識の整理(=研究)、(2)コミュニティ、(3)就職予備校 の機能のうち(2)のみになり、貴族がお茶しながら人間関係を維持・拡大する場になっていくのでしょう。まさに市民革命前夜のサロンのように。
受験戦争で得られる抽象化能力を活用し、次の時代を楽しむために必要なものは何か。それが、私が先月の記事で書いた(1)歴史への迎合、(2)「経済的理由による労働」からの解放、(3)パラダイム思考です。
(余談2)受験戦争勝利で得られるもの:抽象化能力(スキル)と肥沃な土壌(リレーション)

出典:YANMAR 営農情報 営農PLUS Vol.6 肥沃な土壌とは(腐植のおはなし)
中学受験に限らず、受験戦争に勝った先にあるものは学歴、「社会的地位」つまりコミュニティです。高い社会的地位は、支配階層との人間関係形成がより容易に行える立場であり、また、少ない労力で大きな経済力を得られます。
言うなれば「肥沃な土壌」です。ビジネスはスキルとリレーションの相互作用で生まれますが、スキル・リレーションともに磨きやすく活用しやすいため稼ぎやすく、故に経済的優位性を確立しやすい立場と言えます。

出典:文部科学省 第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会
例えば令和元年度の全体で1兆円ちょっとの国立大学法人運営費交付金において、東大が7.5%、京大が5%分配されています。高学歴ほど高い社会的地位にアクセスすることができ、経済的優位性を確立しやすいなら、階級・階層の向上を志向して親が子供に大金と労力をつぎ込むのは理解できます。
一方で私のスタンスは、受験勉強で学ぶ内容と得られる抽象化能力に極めて高い評価を見出しつつ、得られる社会的地位には魅力を感じず、むしろ精神をすり減らしてまで日本の受験戦争に子供を投じたくないという思いもあってアメリカへの挑戦を志向しました。この国の未来に、20年後の「日本円」に、どれほどの価値があるだろうか。没落する先進国で社会的地位を築くのと、少なくとも世界の覇権を握るための競争を行う国で生き残るので、どちらが「肥沃な土壌」なのか。正直に言うと、今はどちらが正解か分かりません、ただし10年後や20年後にこの選択が正解だったと思えるよう、今精進し続けるしかないと思っています。
繰り返しになりますが、ビジネスはスキルとリレーションの相互作用で生まれます。お金を稼ぎたければ、勉強して専門性を磨いてスキルを高めるか、社会的立場や金持ちとの関係性を築いてリレーションを維持・向上させるかの2つの方向性があります。
スキルを磨く世界観では、自分の専門分野で他者よりも・AI/AGIよりも優位性を築き続ける必要があり、学習効率の加速度の視点で、いつか(既に?)人類の自己研磨の加速度がAI/AGIに追い付かなくなり、教育投資がペイしなくなるなるでしょう。それならばリレーションで社会的地位を高め、体制側・支配側を維持拡大しつつ世襲化して貴族層を成す以外に次の時代を生き残る方法はありません。
確率分布に支配される世界観への挑戦

少し話は逸れますが、私の母が59歳で亡くなった際、ステージⅣBの肺ガンが見つかってから亡くなるまでの1-2年は分子標的薬タグリッソを服用してました。その延命効果について、薬剤師の妻は「ちょうど添付文書で示された程度と同じ延命効果だった」と言ってました。母は想定通りの延命効果を経て奇跡も魔法もなく死んだ、人生は確率分布の中で決まることを強く意識させられた出来事でした。
先のニュートン算への適用可否を分水嶺とする私の仮説も、結局はほぼ固定化された確率分布の中で勉強法やら偏差値やらと騒いでいただけなのかなと思うことも少なくありません。
既にほぼ決まっている確率分布に常日頃から私達は支配されている中で、私が想像する貧富差拡大とAI/AGI代替による大規模失業の時代の到来もまた、単なる確率の議論には過ぎないと思っています。ただし、今よりも貧民が成り上がりらい、階級が固定化していく歴史をたどるのは間違いないでしょう。

出典:WebサービスのA/Bテストや機械学習でよく使う「確率分布」18種を解説
パラダイム思考は、自分が興味を持った対象の確率分布を理解するのに役立つと思っています。固定的な未来にも、明るいシナリオと暗いシナリオがあり、それぞれが起こり得る可能性を計算できるのです。天然石のバイヤーだった祖母は、こうした大局観を「商人の嗅覚」と呼んでいました。

出典:ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2019年」を発表
「パラダイム・シフト」とは、この確率分布が大きく変化する事象だと理解しています。この事象を起こす側、起こることを事前に察知して行動を起こせる側の人間になることこそ、次の時代を楽しく生き抜く秘訣だと確信しています。
人生=「役割粒度と忠誠度の選択」

出典:ソラコムCTO安川氏が語る攻殻機動隊S.A.C.流の組織づくり【K16-8D #6】
一般に、古今東西、社会はピラミッド型の意思決定・組織編制を持ち、少数の上層が大量の末端を指揮する形になります。同権限の主体が相互にネットワークする組織体を実現できたのは歴史上、公安9課くらいでしょう笑 そんな公安9課も大規模編成の相手には歯が立ちませんでした。少数の天才集団が世界を牛耳るというのは幻想か、歴史上のひと時の輝きに過ぎず、大きなトレンドにおける誤差のようなものです。
そんなピラミッド組織の社会において、私は人生を「役割粒度と忠誠度の選択」と捉えています。簡単に言えば社会に果たす自分の役割を決めることなんですが、役割粒度とは、自分が価値を発揮する業界業種に加えて、バリューチェーンの中のスコープと、そのスコープに関わる細かさと考えています。更に、その役割粒度にどれだけのコミットメント・熱意を注ぐのかが忠誠度です。
パラダイム思考は、この役割粒度と忠誠度の選択を柔軟に変更・順応させることができる思考法だと思っています。「分ける・比べる・繋げる」訓練は、常にその状況に適したパラダイムの選択とその変化への気づきを促してくれるはずです。これが、私が子供に伝えること。
それが正しいか否かは神のみぞ知るところですが、何はともあれ今はアメリカで生き抜くために精進し続けるほかなさそうです。