日頃から現象に興味がある私は、その発生要因の中で自分自身でコントロールできることを普段から良く考えています。中でも自分一人でコントロールできる「スキル」や、それを支える「教育」「訓練」の手法とそのメリット・デメリットは、子供を育てる父親としても深く関心を持ち、かつ責任を感じている分野です。
能力開発に関して私が考えていることの整理・備忘のために、シリーズ化して雑記のような形式で書いていきます。この記事はその第2回です。第1回は下記。
第2回はパラダイム教育。私がこれまで雑然と考えていた手法、長女に試してきたことを「パラダイム教育」と名付け、体系化や教材開発に注力することにしました。今まで様々な教育理論や手法に触れてきたものの、私の中では釈然とせず、そして「私ならこうする」というイメージがあったので、その手法をまとめつつ子供たちに試す所存です。この記事では、「パラダイム教育」に至る背景やその教育手法の設計思想、方法論の開発に向けた基本概念について述べます。
「パラダイム」とは
2023年6月28日から3日間にわたって行われたIVS 2023 KYOTO/IVS Crypto 2023にて、サイバーエージェント社長の藤田さんは下記のようにインタビューに答えています。
藤田:事業に対する洞察力と同じくらい、人や組織に対する洞察力も重要だと思います。私自身、学生時代のアルバイト先であるベンチャー企業の専務から、「社長になりたいんだったら、感性を磨け」と言われて意識してきました。
当時、「感性を磨くにはどうしたらいいですか」と聞いたら、その答えは「本や映画、舞台などをたくさん見て、人々が何からモチベーションを得て、喜びを感じ、誇りに思うのかを学べ」というものでした。今でも年間100本は映画を見て、本も雑誌も新聞も読み、舞台にも足を運んでいます。
そうやって人に対する洞察力は磨いてきたと自負しています。会社が社員のことを大事にしたら、社員も会社が大事だと考える。それに、よい事業ドメインを選び、やる気がある優秀な人材を登用して会社を成長させていこうと考えれば、よい事業を選ぶ洞察力と同レベルで、人をやる気にさせる洞察力は必要になります。
引用元:Forbes Japan サイバー藤田晋の経営者論 「洞察力」を磨くために年100回やること
上記の「感性を磨く」は、私の言葉で言うと「パラダイムを理解する」です。パラダイムとは、「あるひとつの時代の人々の考え方を根本的に支える概念」「模範」「規範」「典型」。その時代や空間を生きる人々が意識的・無意識的に常識だと考えているルール、常識、共通理解。パラダイムを理解することで、時代や人々が求めていることが分かり、それはビジネスチャンスとして投資・経営の意思決定を行う上での重要なヒントになります。
私がパラダイムという概念に触れたのは、大学生のときに読んだこの本。社会人になっても未だにたまに読み返します。
本書では、パラダイムが指すものについて下記のように述べられています。
私は長い間、パラダイムという概念の部分集合をあらわす言葉を集めてきた。以下に列挙した言葉は、変えやすいものから、変えにくいものへと、ならべたものである。その順番には異論もあるだろうが、まず言葉を眺め、言葉に内在する成功のための境界とルールと規範について考えてほしい。
理論 モデル 方法論 原則 基準 プロトコル 日課、手順 前提 慣行 パターン 習慣 常識 通念 思考様式 価値観 評価基準 伝統 しきたり 偏見 イデオロギー タブー 迷信 様式 社会的強制 悪癖 教義
引用元:ジョエル・バーカー『パラダイムの魔力 新装版 成功を約束する創造的未来の発見法』
本書では数々の事例を挙げながら、私達の思考回路や行動様式の土台となる無意識下での常識やルールを知覚・理解し、その転換点たる「パラダイム・シフト」を乗りこなすことで、激動の時代を生き抜くことができる旨を示しています。
例えば、1970年代初めにCDの研究を始めたソニーは、レコードをコンパクトにしたCD試作機への録音可能時間が「18時間」と見積り、どんな音楽を入れて良いか、いくらで販売すればいいか想像できず、CDは音楽に向いていないと判断して1976年に開発を中止してしまいました。CDが社会に普及するのはその後1990年代になってからのことです。ここでは、「レコード」のパラダイムが発想の足かせとなり、後に普及するCDへの技術的準備はできていたものの、商業上のパラダイム・シフトが遅れてしまったという文脈です。
1960年代、大型の高炉で重厚長大に鉄鋼を作ることが常識だった中、ケネス・イバーソンは地方に小型の電炉プラントを建設し、高炉での鉄鋼精製過程で生じるゴミであるスクラップを集めてリサイクルすることを提案。その当時は相手にされなかったものの、20年経つと市場を着実に奪い「この技術革命は、高炉各社にとって大きな脅威になるだろう。(高炉各社は)古い設備に投資しすぎており、従業員を柔軟に動かすことができない」と評されています。ここでは、小型電炉プラントによる製鉄というパラダイムシフトにより、一世を風靡した高炉鉄鋼が過去のものになってしまったという文脈です。
将来のことをどれだけ研究しても、予想はつねに裏切られる 。しかし、茫然とすることはなくなる 。 —ケネス ・ボ ールディング
1975年、経済学のボ ールディング教授の講演で、この言葉を聞いたとき、将来のことをしっかり考えておくことがいかに大切か、これほどみごとに説明する言葉はないと思った。将来はつねに、予想外の事件が起こる。それは天の摂理である。しかし、あらかじめ十分考えておけば、予想できることも多い。そして、将来がどうなるのかをしっかり考えておけば、そのときになって「茫然とする」こともなくなる。パラダイムの原理が大いに役立つ理由はここにある。わたしはこれまで、パラダイムについて次のようなことを指摘してきた。
1. わたしたちの世界の見方は 、パラダイムから大きな影響を受けている。
2. 現在のパラダイムに習熟しているために、パラダイムを変えることに抵抗する。
3. 通常、新しいパラダイムをつくるのは、アウトサイダーである。
4. 人よりも早く、新しいパラダイムに移るには、確実なデ ータがそろうまで待たずに、信念にもとづいて行動しなければならない。初期段階で、確実なデ ータが十分にそろうことは絶対にないからだ。
5. 新しいパラダイムに移った人は、新しいル ールを取り入れるので、世界の見方が変わり、新しいアプロ ーチで問題を解決できるようになる。
6. パラダイムが変わると、だれもが振り出しに戻る。したがって、古いパラダイムで俄然有利に立っていた人が、その力の大半、あるいはすべてを失う。
以上の結論として、わたしはこう言いたい。激動の時代には、パラダイムの動向につねに気をくばり 、柔軟に対応していくことが、もっとも重要になると。
引用元:ジョエル・バーカー『パラダイムの魔力 新装版 成功を約束する創造的未来の発見法』第14章
パラダイム・シフトによって新しいパラダイムが生まれると、旧来のパラダイムは落ち目となり衰退します。ネット番組の普及によりテレビ番組は衰退し、スマホの普及でガラケーメーカーは衰退し、マッチングアプリの普及によりお見合い業者は衰退。新しいパラダイムは、生まれた当初は決して良いアイディアとはされないものの、社会変化の中で徐々に受容され、いずれ支配的なパラダイムとして定着します。こうしたパラダイム・シフトを繰り返した世の中において、冒頭に引用した藤田さんの言葉のように、感性を磨き続けてパラダイムを理解し、投資・経営レベルでのビジネスチャンスを逃さず、パラダイム・シフトを乗りこなすことを目的として、AIとの協業を求められる子供たち世代に向けた教育手法を開発することにしました。
「パラダイム教育」とは
上記の考えを念頭において開発する「パラダイム教育」は、パラダイム・シフトを起こすスキル、パラダイム・シフトに順応して加速させるスキル獲得を目指します。定型業務を常に改善しつつ、新しいビジネス判断を見つけて投資・経営できる感性の習得、並びにそうした変化を起こす研究に従事できていることを目指します。
それを実現するためには、(1)過去存在したパラダイムや過去に生じたパラダイム・シフトを理解しつつ、(2)現在自分自身や社会を取り巻くパラダイムとその変化状況を常に理解する必要があります。
どうすればパラダイムを知覚・意識できるようになるか。学生の時からずっと考えてきました。自分自身の体験から考えるならば、学校で習う知識や概念を全て時系列で整理し、その知識・概念の獲得前後で当時生きていた人たちがどう変化したかを妄想します。
例えば、移動の自由がない中世、人々は「娯楽」なしに何を楽しんだのか。電気がない時代、夜が長い中で生活していた人たちは何をして暇を持て余したか。旧来の貴族階級のボディガードだった平氏と源氏が台頭して幕府が築かれる中、旧来の貴族階級はどんな思いで時代の変化を憂いたか。近代化以前、日本の農民の自殺率が低いのはなぜか。などなど。妄想は絶えません笑
私が民俗学が好きなのもこういった理由からです。縄文時代、祈祷しながら土偶の足を折ると痛みが和らいだそうで。そんな迷信でも、本気で信じ込んだ集団の中で生きてるとそう思うのかもしれません。大航海時代以前、日本には「ヤマイモ」と「サトイモ」の2種類しか存在せず、山と里の交流地点として、関東平野だと群馬の前橋、高崎、渋川といった宿場町が栄える中で、新大陸経由でジャガイモやサツマイモが流入してイモ業界地図や農地活用が様変わりするお話も大好きです。
過去様々な教育手法に触れてきた私にとって、達成度表とそれに紐づく技能と想定成果は必須なので、この辺はおいおい作っていきたいと思っています。なお、「幼少期から超高度に投資しまくったハイスペ神童の最終着地が東大合格&JTC就職という平凡人生成ルート」という現代の悲劇からは脱却したい一心です笑
「パラダイム教育」の手法の基本概念
ここまで読んで頂くと、私が単なる歴史オタクに見えてくると存じますが笑、私の感覚はちょっと違います。人類の歩みを、その都度歴史という形で編集してストーリー化し、現在にあてはめて教訓を得る。これは単なるメタ認知です。歴史上に見られた現象の中からいくつかピックアップして分類・体系化し、それらの優劣や善悪、優先順位を評価し、それらをストーリー形式で繋いで流れにまとめる。このように、メタ認知的な理解を行うのに必要なのは「分ける・比べる・繋げる」の3技能だと考えています。
私が学んできた全ての情報は、先人によってメタ認知化され、「知識」や「情報」という形で書籍や論文に掲載されていました。私はそれらを丸暗記するように記憶しつつ、そこから一般性や応用できる余地を検討し、私が生きる今の世界に活用しています。
「分ける・比べる・繋げる」は、私がコンサル時代にお世話になった某シニマネの言葉。情報を加工する脳の機能には、突き詰めると3つしかない、あとはこの機能をどの世界観で使うか。単なる目の前のマニュアル作業の効率化に使うのか、売上と費用構造を刷新してビジネスをドライブするのか、歴史の転換点となる産業を作り上げて人々の価値観を変えるのか。この考え方は、数十年しか生きられない個としての自分が数千年の人類の歴史にどう関わるかという非常に巨視的な視座から生まれており、私は今でも大切しています。
受験・資格・実務経験どれにおいても、お勉強で得る「知識」は、必ず何かのソリューションになっている。前と後でどのような変化があったか、人々は前後でそれぞれどんな生活を送り、何を楽しみ、何を欲していたか、どう時間と空間を使っていたか、どのように人間関係を構築・維持したか。私が開発を試みる「パラダイム教育」の手法の基本概念は、収集する知識を脳内で「分類」し、「評価」し、「ストーリー化」する訓練です。
分ける:分類 – 共通点と相違点、上位カテゴリーと下位カテゴリーの検討、体系化
比べる:比較 – 評価軸の設定、大小・優劣・善悪の評価、順序・優先順位付け
繋げる:ストーリー化 – 分類・比較した情報の因果・相関・前後関係、歴史的再現性の検討
今、長女は1歳9か月。この時期でも既に訓練は始めており、10つの積み木を「形」「色」「材質」「手触り」「大きさ」といった概念で分類したり、それらに好き嫌いや持ち運ぶ順番を訊いてみたり、それらや他のおもちゃを使ってストーリー展開する遊びをしてみたり。この時点で長女は他の子とは違う視点や遊び方を獲得しているし、私も長女の無秩序な発想や分類・評価方法にはいつも驚きと学びを貰っています。
この訓練を何歳くらいからどのくらいの時間をかけてどのような形で実施し、どのような成果物にまとめるか、どう評価するかは今後子供たちに試しつつまとめていきます。
「パラダイム教育」を受けた子たちの将来
私はまず、この教育手法を自分の子供たちに試します。開成や灘といった難関中受~大受までの所謂お受験勉強や、某0歳教育のn倍速聴き取り・高速フラッシュカードのような脳の処理速度を高める手法を経験しつつも、その結果生まれた天才児たちに、人生に対する役割意識や哲学がないことは正直憂いていました。
私は子供たちに3歳頃から投資手法を教え、6歳頃には年2~3000万円以上稼げるようにする予定です。生きていくには十分な収入でしょう。それだけあれば、生きるために労働する必要がなくなり、かえって自分が何のために時間を費やすべきかを悩まなければいけなくなります。AI進化による激動の時代の中、子供たちが歴史に対する自分の役割や没頭したい自分の好奇心・興味分野に忠実に生きることを望み、その武器として「パラダイム教育」を渡します。